熊野那智大社とその宝物

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 1枚目の写真にみられる現在の熊野那智大社の社殿は,江戸時代末期の嘉永4年から7年(1851~1854)にかけて建立されました。正面左端の第13殿・滝宮,第3殿・西御前,第2殿・中御前,第1殿・証誠殿,第4殿・若宮,そして第5殿~第12殿までの8社殿が直角に折れ曲がり,並んで建てられています。

 なお,参考までに,2枚目の写真としてアメリカのクリーブランド美術館諸像の鎌倉時代制作の「熊野曼荼羅」の中から熊野那智大社を選んでかかげておきますので参考にしてください。

 熊野那智大社の宝物館には,3枚目の写真にあげた平安時代の古銅印「牟婁郡印」(国重要文化財)や,さらに平安時代前期(10世紀)の女神坐像(夫須美神か,那智山尊勝院伝来),平安時代後期の男神坐像(那智山実報院伝来),県指定文化財の85面の奉納鏡(古墳時代から室町時代にかけてのものが中心),鎌倉時代の熊野本地仏曼荼羅図(県指定文化財),鎌倉時代から室町時代にかけての剣とそれを納める江戸時代前期の金銀装宝剣拵・銅鍍金銀箱(重要文化財),さらに鎌倉時代から室町時代にかけての,熊野三所権現・千手観音・阿弥陀如来薬師如来如意輪観音・十一面観音などの懸仏,南北朝時代の若宮本地仏の十一面観音坐像(那智山尊勝院伝来),南北朝時代室町時代の朱塗唐櫃(県指定文化財),さらにはかつて豊臣秀頼によって市野々王子社に奉納されていた慶長6年(1601)の銘がある鰐口,寛永2年(1625)の銘がある擬宝珠などが収納・展示されています。
 『熊野那智大社文書』46巻2冊2帖2枚が国重要文化財に指定されています。

 なお,熊野那智大社収蔵庫には,下御門仏師一門によって制作された古神像群15体が収蔵されています。

 熊野那智大社では,現在,例大祭として毎年7月14日に扇会式(おおぎえしき)がおこなわれています。これは,滝を形取った大きな木の板に扇と奉納された鏡を取り付けた神輿が社殿から那智滝までお渡りをおこない,神輿とともに滝本まで移動した神々が扇誉め神事によって新たな生命力を獲得するための祭礼でありますが,お渡りの際に,巨大な松明に火を灯した勇壮な集団が先導するところから,那智の火祭り(県指定無形民俗文化財)ともよばれています。

 なお,扇会式の際におこなわれる那智の田楽は,室町時代初期に京都から招いた田楽法師によって始められたと伝えられています。中世の田楽の芸態を良好に今に伝えているものとして,重要無形民俗文化財に指定されています。また,同時におこなわれる御田植式も中世的な雰囲気を残すものとして知られています。

 『別冊太陽 熊野』(平凡社,2002年)より熊野那智大社の写真を,さらに和歌山県立博物館編『世界遺産登録記念特別展 熊野・那智山の歴史と文化-那智大滝と信仰のかたち-』(2006)からも写真を掲載させていただきました。