古代エクアドルの青銅貨幣

イメージ 1

 最近,祖父や祖母の遺品を整理しています。その中から古銭・切手や骨董など懐かしいものを幾つか見つけました。それらを見ているうちに,趣味というものも遺伝するんだなあ,とつくづく感じました。

 私は,明治・大正・昭和の小規模古銭・切手収集家だった祖母の影響を受けたためか,それとも少年期に湧き起こる収集欲を貧しさ故に強制的に押さえ込んできたためか,青年期のある時期を境に研究を目的とした古銭収集の世界にまぎれ込んでしまったようです。
 
 当初は祖母が収集していなかった近代以前の日本の古銭・藩札や中国の古銭・紙幣を収集・研究していたのですが,いつの頃からかそれ以外の世界の古代・中世の古銭や近代の紙幣をも収集し,研究の対象とし始めました。しかし,特に体系立てて収集しているわけではないので,見た人はその収集品から雑多な印象を受けるかもしれません。
 
 最近手に入れたモノの中で特に私の研究欲を刺激しているモノが,南米のエクアドルからもたらされた「斧形の青銅貨幣」です。
 時期は10世紀(マンテーニョ文化)。この貨幣は,鋳型に砒素の入った銅と鉛を流し込んで造った青銅貨幣のようです。嬉しいことに表面に金粒のようなものが付着しています。非常に希少な品のようです。
 
 以前から,古代アンデス文明には貨幣はなかった,といわれていましたが,エクアドルからペルー北部にかけてのごく一部の地域で,まれに「ナイぺ」と総称される原始通貨が見出されているようです。しかし,その形は一定しておらず,地域によって I 字型青銅板(これはたたき延ばして造ったモノのようです)など色々な形があったようです。
 ペルーのシカン文化研究で有名なサウス・イリノイ大学教授の島田泉氏(『黄金の都シカンを掘る』の作者)によりますと,シカンの人々はマンテーニョの人々と,「ナイぺ」やその他の砒素青銅製品とエクアドルの海岸で獲れるウミギク貝や芋貝を交換し,何等かの儀式に使用していたようです。また,シカン社会の上層階級の人々が欲しがるエクアドルやコロンビアで獲れる金塊やエメラルドを,マンテーニョの人々が仲介し交易していたという説も出されています。
 マンテーニョの人々は,シカンからもたらされた I 字型青銅板を溶かして鋳型に流し自分たちの好むモノや貨幣を造っていたようです。金粒はその時にまぎれ込んだモノでしょうか。