鯛島と青暑島〔串本町・旧古座町の民話〕

鯛島と青暑島〔串本町・旧古座町の民話〕

 昔々,川の水が温かくなってきた春の古座川口近くの海岸で,鯛の子と蛇の子が仲良く毎日遊びたわむれていました。そして,年を重ねるにつれて,いつしかお互いに恋心をいだくようになり,やるせなさと不安が積もっていきました。
 「蛇さん,あのね。私は大きくなったら深い海に行かなければならないの。そうしたら,蛇さんは私のことなんか忘れてしまうでしょうね」
 「そんなことはありませんよ。あなたこそ私が大きな蛇になったら,恐ろしがって私に寄りつかなくなるのとちがうだろうか」
 そうこうするうち,ある年の梅雨の時期に大雨が降り,川が大水であふれてしまいました。そのため,遊び場だった岸も流れてしまいました。蛇は仕方なく,鯛に別れを告げ濁流をさかのぼって行きました。鯛はそんな蛇を悲しく見送り,自分も深い海に帰る運命を悟り深海へ泳いで行きました。
 鯛と蛇はこのようにして離れ離れになってしまいましたが,お互いに完全に忘れられず恋しさはつのるばかりでした。それで,とうとう蛇も鯛も岩になってしまいました。
 集落の人たちは,鯛が岩になったものを鯛島,蛇が岩になったものを青暑島と呼ぶようになりました。
 これを知った弁天さんと大黒さんは相談の末,鯛と蛇を逢わせてやるために漁師に舟を作らせ,一年に一度だけ,鯛を船に乗せて古座川を上らせ蛇に逢わせてやることになりました。
 これが古座の河内祭の始まりだそうです。
     
    (紀南文化財研究会編『熊野古道 大辺路の民話』〈和歌山県西牟婁振興局発刊〉より)

〔追記〕これは私が脚色を頼まれた執筆分担の文章です。